成長に欠かせなかった「フリーランス」という働き方
30歳未経験でエンジニアに — というキャリア設計は、かなり異色だと思うのですが、なぜ、エンジニアを目指そうと思ったのですか?
大塚さん: もともとは音楽で身を立てようと上京したのですが、夢破れて20代後半で地元に帰ってきたんです。
手に職もなく、これからどうしようと考えながら求人誌を見ていると、やたらSIerの求人が多かったんですね。当時はSIerがどんな仕事なのかも知らなかったのですが、商業高校出身でワープロ検定の資格を持っていたので、「これを武器にやってみようか」と思い立ちました。
こんなに人の入れ替わりが激しい仕事なら、そこで生き残ることができればチャンスがあるんじゃないかと思ったんです。
そうして中堅のSIerに入って7年ほど、いろいろな会社のIT化を支援してきました。
フリーランスになったきっかけは?
大塚さん: SIerで働いていた時に、とある案件で半年間、Web開発のチームに入ったのですが、そのチームリーダーがフリーランスの方だったんです。その方の仕事の仕方がとにかく刺激的で、大きな影響を受けました。
そのリーダーは自衛隊からエンジニアにキャリアチェンジした方なので、中途エンジニア組としての親近感もあったのですが、とにかく仕事の仕方がこれまで見て来たリーダーの誰とも違っていたんです。
当時、注目されていたスクラムやアジャイルといった開発手法を提案して、自分の言葉で説得して通し、まわりをどんどん巻き込んでチームをつくっていくのを目の当たりにして、とにかく刺激を受けて。それまではサラリーマンエンジニアのような生き方をしていたのですが、その時にフリーランスという道があることを知ったんですね。
その後、自分がリーダーとしてチームを持つことになって、2年ほどプロジェクトのリーダーを務めたのですが、そのリーダーの影響で、ブレずにプロジェクトメンバーに方向性を示して開発を進めることができたんです。このプロジェクトで自信がついて、フリーランスでやっていこうと決めました。
プロジェクトリーダーは会社に所属していてもできますが、なぜ、あえてフリーランスの道を選んだのでしょう?
大塚さん: ちょうどその頃、勉強会やイベントなどでフリーランスのエンジニアと会う機会が増えて、刺激されたというのは大きかったですね。
SI企業に所属していると、その会社の立ち位置、例えば孫請けやひ孫受けだったりすると、自分のやったことが評価につながりづらいところもあるんです。実力がつけばつくほど、会社に所属していることが足枷になるケースも出てきて……。
自分の性分として、スタートラインのところから自分でプロジェクトを選んで、覚悟を持って取り組みたいという気持ちが強くなっていたのもあり、思い切ってフリーランスに転身することにしました。
それからフリーランスという働き方にこだわってきたのですね。
大塚さん: こだわる、というより、他のエンジニアとの差を埋めていくためにはそうせざるをえなかった、というところはありますね。
30歳をすぎてから未経験でエンジニアになるというのは、若い頃からエンジニアだった人に比べると大きなハンデがあるんです。普通の働き方をしていると、プロジェクト経験や知識の差がずっと埋まらないんです。
そこを埋めるためには、自分からアクティブに動いてキャリアにつながる案件を見つけ、こなさなければならないので、フリーランスとして実力をつけるしかなかったんです。
フリーランスのエンジニアは、変わり続ける市場価値の中で、常に「自分の立ち位置」を意識して「選ばれるエンジニア」であり続ける必要があります。そこについてどんな工夫をしていましたか?
大塚さん: プロジェクトに参加する時に意識していたのは、「現場の流れを見て、自分ができそうなことは何か、注力できる技術は何か」を見極め、形にすることですね。
ここをしっかりやっておくと一定の評価が得られますし、自分に足りない部分は現場の優秀な人の刺激を受けて学ぼうという意欲が湧きます。新しい技術については、キャッチアップする時間がある現場に入って、手を動かしながら身につけていました。
フリーランスのエンジニアにしては珍しく、人材育成にもコミットしていたそうですね。
大塚さん: 一緒に働いている人がプロジェクトを通じて育ったら最高だと思っているんですよね。
ちょっとしたことなんですけど、ミーティングの後に「こういうふうに言えばもっと伝わるかもしれないね」とアドバイスしたりとか、裏でそういうことをするのが昔から好きなんです。こういうちょっとしたことで、プロジェクトの雰囲気が良くなったりもしますしね。
MFSでのエンジニア経験が転機に
コードクライマーに紹介されたMFSでフリーランスとして働こうと思った理由は?
大塚さん: 実はMFSの前の職場が合わなくて、いろいろ大変だったので、「次に働く時には自分のスタンスをはっきりさせて、それでもいい、と言ってくれる企業で働こう」と思っていたんです。
この時、自分が大事にしていたのは、「人の言うことややることに敬意を持ち、お互いに尊重しあう文化があること」で、MFSにはそういう文化があったんです。みんなちゃんと話を聞いてくれて、尊重してくれるから、自分もそういう振る舞いができて、それが良いサービスにつながる——という流れができていたように思います。
内田さんは大塚さんに仕事を紹介する際、どんな会社がフィットすると思っていましたか?
内田: 大塚さんは、「本質的なことをやりたい」という思いが強いので、スピード重視でガンガン開発するような企業よりは、中長期的な視点で開発していくことが前提の企業のほうがいいだろうと思っていました。
文化的にもノリと勢いで進んでいくようなところは多分、あまりフィットしなくて、ビジネスに対する解像度が高い経営陣が運営していて、でもまだ体制が固まりすぎていないような企業が合いそうだと思いました。
あと、大塚さんはフリーランスでありながら、会社のビジネスについて踏み込んで考えたり、若手の育成をしたりといったことができる人だったので、ゼロから新しいサービスを生み出すフェーズではなく、スケールさせる段階の企業の方が向いているとも思いました。このフェーズでは、組織としての形をつくっていくためのコミュニケーションが重要になるので、大塚さんのような方が活躍できるケースが多いんです。
こうした大塚さんの強みを考えた時にぴったりだったのが、不動産投資サービスや住宅ローンのレコメンデーションサービスを手掛けるスタートアップ、MFSだったのです。
MFSでは2年という長期にわたって働くことになりました。どこがフィットしたのでしょう?
大塚さん: 自分が貢献できることが多かった、ということだと思います。例えば、会社によっては「業務委託が社員教育をする必要はない」というところもありますが、MFSは「やっていいよ」と言ってくれたんです。最近ではチーム運営について相談されるようになって、「信頼されているという実感があったこと」が理由の1つだと思いますね。
正社員になることを決めた理由
大塚さんのMFSでの働きぶりを見て、内田さんは「正社員として働くほうがキャリアアップにつながるのではないか」と思ったそうですね。
内田: そうですね。このままフリーランスを続けていけるとは思っていたのですが、少しもったいないような気もしていたんです。
というのも、フリーランスとして働いている限り、企業の全ての情報にはどうしてもアクセスしづらいんです。社員なら事業ドメインのコアの部分にもアクセスできますが、どんなに優秀な働きをしていても、フリーランスだと得られる情報に限界があります。
大事な部分を握れなかったりするので、大塚さんがプロジェクトをハンドリングしていたとしても、採用する企業が経歴を見る時には「業務委託の範囲の中でやっていたこと」と見られてしまうんです。
大塚さんのように、事業に深くコミットするし、社員の成長も手助けするような人にとって、フリーランスという立ち位置だと、どうしても「せっかく会社のためにやったこと」が経歴上では「なかったこと」になってしまいがちで……。そうするとやったことの正当な対価が得られないので本当にもったいないんです。
このままフリーランスとして働く場所を変えたとしても、チームやドメインが変わるだけで、解決する課題の難易度はある程度、頭打ちに近いところがあるかもしれないとも思っていて。それなら大塚さんの強みを評価してくれて、プロジェクトや企業のコアの部分にまで踏み込める立場で働いて評価された方が、今後の成長にもつながると思ったんです。
これは3カ月ごとに契約エンジニアの方と行っている評価フィードバック面談の時に、大塚さんにも話していました。
大塚さんはそれを聞いてどう思いましたか?
大塚さん: そういう道もあるのか、とは思いましたが、当時はフリーランスで自由にやりたいという気持ちは変わらなかったですね。信頼している内田さんが言うことだからそうなのかもしれない、とも思いましたが、リアルには捉えていなかったかもしれません。
それからしばらくしてMFSから社員のオファーがあったのですね。
大塚さん: そうですね。実際にオファーをもらった時に、内田さんの言葉が頭の中でつながってきて……。
それまでは「社員になること=安定すること」という意識が強かったのですが、社員になるにあたって会社側といろいろ話している中で、次第に「社員になること=挑戦すること」というように考えが変わってきたんです。
オファーをもらって自分の働き方を改めて振り返ってみると、いつしかフリーランスなのにぬるい働き方をしていたことにも気付きました。
長年の経験である程度の仕事はこなせてしまうようになっていたので、あえて挑戦しなくてもうまくプロジェクトを回せるようになってしまっていたんです。
このままだと成長できなくなってしまうし、最新技術を追わなくなってしまうのではないかというおそれもありました。
社員になって、さらにビジネスにコミットしたり、責任を引き受けたりすることで成長できるのではないかと考えて、オファーを受けることにしました。
部長職に抜擢されて見えてきた景色
大塚さんはフリーランスから社員になってすぐ、部長職に抜擢されたとお聞きしました。
内田: CEOの中山田明氏によると、コミュニケーション力が高く面倒見のいい人という印象があったことから自ら社員になるよう口説いたそうです。大塚さんの入社直後にCTOが辞めることになり、部長職に抜擢したところ、経営層と開発陣の意思疎通や雰囲気がよくなったとのことでした。
部長に就任してどんな変化がありましたか?
大塚さん: マネジメント職になったので、メインの仕事が体制づくりや契約周りなどの仕事になりました。開発はほとんどやっていなくて、週に2~3時間できればいい方ですね。
あと、予想はしていましたが、「現場のリーダーとしてのマネジメント」と「部長のマネジメント」は、やはり大きな違いがありました。自分が覚悟していたより、はるかに責任が大きいというのが実感です。
自分の決めたことが、社内で「正」になるので、当然のことながら判断の基準が「自分にとってどうか」ではなく、「顧客にとってどうか」「会社にとってどうか」「メンバーにとってどうか」になります。フリーランス時代とは判断基準が全く変わるわけです。
ただ、フリーランスの時から、お客さんのために自分がどう動いたらもっといいものになるか——といったことは常に考えてきたので、すぐ頭を切り替えられました。
フリーランスの時とは見える景色がかなり違うのでは?
大塚さん: フリーランスの時には「画面と開発コード」しか見ていなかったのが、今は経営層が自分と近いところにいるので、経営のコアな部分や会社としての今後のあり方などを知る機会が増えました。まさにフリーランス時代には見ることができなかった景色ですね。
あと、部長職は経営層の言いたいことも、部下の言いたいこともわかるので、ブレないことと、どっちつかずにならないようにすることは意識しています。
いろいろと大変なことも多いですが、新しい環境、初めての役職は挑戦のしがいがあり、正社員になって良かったと心から思っています。
コードクライマーに期待すること
コードクライマーの存在は、大塚さんのキャリアにどのような影響を与えたのでしょうか。
大塚さん: コードクライマーは、自分の個性に合ったフリーランスの仕事を紹介してくれたことに加え、その後の定期的な面談を通じて、キャリア設計について内省する機会をつくってくれたのがありがたかったですね。
内田さんとの定期面談では、フリーランスとして信頼を得るにはどうすればいいか、エンジニアとしてどうありたいのか、そのために必要なスキルは何か、そのために何をいつまでに学べばいいのか——といったことを話すんです。
実はこうした考え方は、企業運営にも通じるところがあるので、会社としてのあり方を考える時や、部下との1on1の時に、とても役に立っています。
内田: 定期面談では、エンジニアの方々が課題を言語化できるよう、意識して問いを立てていました。というのも、もやもやしているものを言語化できないと、適切な手を打ったり改善したりということができないんです。
大塚さんのように、エンジニアとしての価値を高めていきたいと考えている方には、こうした言語化のところも含めて、コードクライマーはマッチするのだと思います。
今後、コードクライマーに期待することは?
大塚さん: これからはフリーランスの優秀なエンジニアを探してもらう立ち位置になるので、MFSの文化に合ったエンジニアを探していただけるとありがたいですね。